ルノーはヨーロッパにおいては純EVモデル『ZOE』を発売しているが、別の手段でも電化を進めている。それが、EVのみならずF1の経験を活用した革新的なハイブリッドパワートレイン「E-TECH」である。『クリオ』においては「フルハイブリッド」バージョンで、また『キャプチャー』と『メガーヌ』では「フル充電式ハイブリッド」バージョンとして提供される。ここでは、そのパワートレインの開発秘話を前編と後編に分けて、ご紹介しよう。

TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)

 ルノーにおいて独自のハイブリッドパワートレインの開発が始まったのは2010年のクリスマスであるとされる。その要件は、軽量、あらゆるサイズの車両に搭載可能、電動での航続距離が最低でも50km、というものであった。それに搭載するためのクラッチレストランスミッションシステムを構築するのに選ばれたのが、モータースポーツで使用されるドッグクラッチだ。発案したのは同社のニコラス・フレマウ氏。パワートレインとハイブリッドシステムのエキスパートである。フレマウ氏が構想を形にするうえで最初に利用したのは、なんとレゴ・ブロックであった。こうして最初に作られたプロトタイプは「LocoDiscoBox」と命名された。

 レゴ・ブロックでの開発からわずか4年後となる2014年、ルノーはパリモーターショーにおいてコンセプトカー『EOLAB』を展示した。同社が10年以内に発売するBセグメント車の姿を示唆するコンセプトカーであるが、それは燃費100km/Lを実現する究極のエコカーである、とも発表された。



 そこに搭載されたのが「Z.E.ハイブリッド・パワートレイン」である。3気筒ガソリンエンジンと、バッテリー+モーター、それに革新的なクラッチレス3速トランスミッションで構成される。総排気量1.0L直列3気筒ガソリンエンジンの最高出力は75ps。組み合わされるモーターの最高出力は68psであり、バッテリー容量は6.7kWh。同社製市販EVと共通品を利用していた。

『EOLAB』は将来の市販化を前提として開発されたコンセプトカーであるため、かなり具体的に要諦を設定していた。その主要な三つが、1.軽量な車両プラットフォームとボディ=『クリオ』サイズで仕上げること、2.燃費性能を実現するため高レベルな空気力学性能を備えること、3.可能な限り最も経済的なトランスミッションを備えること、である。



 2の実現においては、低く急傾斜のルーフを備える必要があった。そこで『EOLAB』では、乗車人員を低く、また前方に移動させた。それでいて良好な視界を確保するため、フロントガラス自体を下げることで対応した。それらの結果生じたのは、エンジンルームの容積縮小である。これがボンネットの下での「住宅危機」を引き起こした。



 そもそも1.の要件を満たすために選ばれたコンパクトなプラットフォームは、パワートレインの幅を厳しく制限していた。この限られたスペースにクラッチ付きのハイブリッドエンジンを搭載することは不可能だったが、唯一の例外が『Twingo』に仕様を合わせたZ.E.パワートレインであった。『Twingo』用エンジン(H4BTまたはTCe 90)を後方に49°傾けることで、サブフレームへの搭載を実現した。そこに合わせて搭載するのが、自慢のクラッチレス3速ギアボックスだ。

 これでコンパクトなエンジンスペースにパワートレインが搭載できる目途が立った。ここからは実用性を高める開発が行われた。『EOLAB』プロジェクトリーダーのローラン・トーピン氏は以下のように語っている。



「主な問題はギアチェンジにありました。クラッチを装備していなくても、スムーズでフラットスポットがない必要があります。テスト段階初期における『EOLAB』は、アクセルペダルを踏み込んだとき、2速と3速の間に感じられる非常に厄介なフラットスポットが存在していました。それに加えて、ドッグクラッチの機械加工が不十分だったため、ギアを変更するたびに酷いメカニカルノイズが発生していました。

 この二点の問題を解決するため、プロトタイプは何度も回収トラックによって持ち帰られました。パリモーターショー会場の傍らにあるモルトフォンテーヌにて『EOLAB』プロトタイプを公開する数時間前まで、計画通りにことが進むか、確信できませんでした」



 E-TECH開発秘話の前編は、レゴ・ブロックから始まったパワートレイン構想が、コンセプトカー『EOLAB』に結実するまでをご紹介した。来週は後編として、エネルギー管理の課題解決から「E-TECH」完成に至るまでをお届けする。

情報提供元:MotorFan
記事名:「 【海外技術情報】ルノーのハイブリッドシステム「E-TECHテクノロジー」開発秘話 前編