W245型Bクラスのリヤサスペンションには、見た目からもユニークな半円型リジッドアクスルが備わっている。この形状の理由とねらいについて考えてみた。

STORY:國政久郎(KUNIMASA Hisao) TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji)

初代Bクラスは、2代目Aクラス(W169)のホイールベースを210mm延長したストレッチ版である。ちなみに2780mmのホイールベースはVWゴルフ(2575mm)やプジョー308(2610mm)を大きく超えている。その結果、名称こそ「B」だがボディサイズは欧州Cセグメントに該当し、後席の居住性も十分に実用的なものとなった。クルマのキャラクターについて、ダイムラーは「コンパクト・スポーツツアラー」と呼んでいるが、これはAクラスとの差別化を図る意図からのものだろう。



プラットフォームの特徴のひとつは、初代Aクラスから引き継いだ二重構造フロア「サンドイッチ・コンセプト」のボディ構造だ。初代Aクラスはもと
もとコンパクトコミューターとしてEVやFCVとの共用を前提に開発され、フロアを二重構造としたのも蓄電池や燃料電池を搭載するスペース確保のた
めと言われている。




結局、当時のバッテリー性能などの関係から一般向けに市販されたのはエンジン車のみとなったが、その搭載方法が特徴的だ。横置き用パワーパッケージはシリンダーを前傾させ、トーボードより下にエンジン構造部のほとんどが収まるようにマウントされている。このようなレイアウトによって、前面衝突時にはパワートレーン全体がフロアの下方へ滑落することで乗員を保護する発想である。また、パワートレーンをなるべく低く置くことで、二重フロア化によって重心位置が高まる悪影響を低減する効果も狙っているはずだ。

このプラットフォームのもうひとつの特徴が、リヤサスペンションである。メルセデスが「Spherical parabolic-spring rear axle」と呼ぶこのリヤサスは、左右のハブを1本の半弧状アクスルで直結しているので、分類としてはリジッドアクスルということになる。



さらにユニークなのは、アクスルのピボットを中央の一点のみとして、横方向の位置決めは、後端に備えたワッツリンクで行なう点だ。配置と構造は写真で確認していただきたいが、この構成ではボディ後端にサスの入力点を持つことになり、従来のボディ構造では成立し得ない。つまり、サスとボディが最初からトータルで設計されていることの証明でもある。



試乗してまず感じたのは、ボディ剛性の高さとともに、サス全体の
剛性が非常に高いこと。突起乗り超えや目地通過が「軽い」印象と言えばいいだろうか、タイヤの先端だけで軽くいなしている印象で、ハーシュという
言葉を使うのは不適切と感じられるほどである。減衰力のチューニングも巧い。フロントは、機械式減衰力調整機構の「セレクティブダンピングシステム」の効果もあってか、凹凸を乗り越えてもフロントの車高がほとんど変わらないほどの踏ん張り感がある。リヤは伸側が常にほぼ一発で収まるので、ボディの揺り戻しを感じることがない。後席の住人はさぞや快適なことだろう。ボディの揺れが最小限に留められた結果として、ブレーキの効きもかなり良好だ。

前方のリジッドアクスルは弧を描きつつ、前後方向、回転方向、キャンバー方向すべての力を受け止める。ただしピボットが中央部のみなので、キャンバー方向と回転方向の動きはある程度許容する。それを規制するため、後端にワッツリンクを備えているわけだ。

全体に、リジッドアクスルが持つ丈夫さ、剛性感、タイヤ位置決めの正確さといったメリットが、非常によく生かされた仕上がりになっている印象で「FFのリヤは軽いので、剛性はそこそこでかまわない」といった説が一気に色褪せてしまった感がある。TBAの場合、ピボットのゴムブッシュが潰れてしまうとトーが左右で逆相方向へ動くが、リジッドなら左右間のトー角変化は絶対に起こらない。その美点を活かしつつ、弱点とされていた点を確実に潰して、リジッドアクスルというサス形式を「再発見」したものと評価できる。



生産面でも、このサスはメリットが大きいはずだ。ワッツリンクはハイドロフォーミング成型なのでそれなりのコストがかかるだろうし、要所にベアリングを用いている点もコストアップ要件だが、アクスルはかなりの大物部品とはいえ鋼板プレスと溶接で成形できるし、トータルの部品点数はむしろTBAより少ないのではないか。しかし新型Bクラスはリヤサスにダブルウィッシュボーンを採用した。もちろん、新型なりの狙いとメリットがあるのだろうが、せっかく「再発見」したリジッドアクスルの良さを一代限りで捨て去ってしまうのは、どうにももったいない話ではある。

フロントサスペンション:マクファーソン・ストラット

メルセデスの現行ラインアップにおいて、Eクラス(W212)までマクファーソン・ストラットを採用していることを考えれば、居住スペースを最大限に確保することが至上命題であるAクラスのプラットフォームがマクファーソン・ストラット以外の形式を選択する意義は皆無だろう。車両全体のパッケージングは「サンドイッチコンセプト」によって特異な部分も少なくないが、フロントサスペンションに関しては非常にコンベンショナル。しかも横置きFFながらタイロッド前引きを実現するなど、セオリーに忠実な構成である。



ダンパーユニットは、可能な範囲で直立させた配置が特徴。路面からの入力ならびに横方向からの曲げ応力に対する抵抗力を高めることを意識した設定と推測できる。周波数感応型減衰力調整機構「セレクティブ・ダンピングシステム」を採用する。



ロワーアームはスチール製のプレス+溶接構造。パワーパッケージ横置きFF車のフロントには珍しく、ハブ側ピボットが車体側2点のピボットのほぼ中央付近に位置するA字型アームを採用している。

 アンチロールバーはスチール製の中空構造。重量物がほぼフロントに集中し、背の高いボディゆえ重心位置も高めとなる対策として、相応に大きな径の中空構造品を採用。ドライブシャフトを避けるために少々トリッキーな形状となっている。リンクはストラット直付けでレバー比は良好。



ハブキャリアはスチールの鍛造製。メルセデス・ベンツは総じてばね下の軽量化に熱心な印象があり、現行車ではCクラスでもアルミ製ハブキャリアを採用しているが、Aクラス/Bクラスではスチール製に。コストとともに、搭載するエンジンの出力レベルなどからの判断と推測できる。容量を文字通りの必要最小限に留めるため、不要部分を極限までそぎ落とした形状が特徴。ドライブシャフトは整然としたレイアウトで、あるべきものをあるべきところに収めている印象。



ステアリングギヤボックスは、エンジン横置きのFF構成ながら、タイロッド前引きを実現しているのが特徴。エンジンを大きく前傾させて搭載し、ヘッド高さを二重構造フロアの下段内に収めたことで実現した構造だが、セオリーに忠実であることを徹底する姿勢には感心させられる。



クロスメンバー/サブフレームはスチール製のプレス+溶接構造。メイン部材はコンベンショナルなH字型。プレス成型品を部位に応じてスポット溶接を主体に組み上げ、要所には補強板を線溶接した構成。実物を見ると、プレス加工そのものの精度とともに、溶接の精度が非常に高いことで、仕上がりの美しさが印象的だ。ロワーアームのピボットは前後とも路面と水平の方向に設定。前後方向のメンバーは後端を車体側サイドメンバーに接合、クラッシャブルストラクチャーとしても機能する。先端部にはラジエーターコアサポート等のロワーマウントを兼ねるプレス成形品をねじ留めしている。

リヤサスペンション:リジッドアクスル

非常にユニークな構成。左右輪間を「アーチド・アクスルハウジング」で直結するリジッドアクスルだが、ピボットが中央部の一点のみであり、またその構造的にアクスル全体としては回転方向、キャンバー方向へ多少の動きを許容しながら、望まない方向への動きはワッツリンクでしっかり規制しているのがポイント。GMのΔデルタプラットフォーム用リヤサスにもこれに近い発想が感じられるが、あちらはツイストビームを残しているのが相違点。見るほどに理詰めで組立てられていることが理解できるサスペンションだ。



そのリヤアクスルはスチール製のプレス+溶接構造。メルセデス・ベンツが「Arched axle housing」と呼ぶ、このプラットフォーム最大の特徴点。一見すると変形のトーションビームアクスルにも見えるが、車体側のマウントがアクスル中央部の一点のみであり、またピボット部による自由度の規制も特には行なわれていないので、機能としては「リジッドアクスル」に該当する。メイン部材は上側と下側を別個にプレス成型し、重ね合わせて溶接した、いわゆるモナカ構造。左右端にはスプリングロワーシート、ダンパーのロワーマウント、ワッツリンクのハブ側ピボットなどを作りつけたハブキャリアを溶接している。



 アンチロールバーはスチール製の中実構造。フロントに比べてやや小径で、ばねレートはあまり高くない。リンクはアクスル上に設定する分、レバー比が出るので、作動効率は低減する。

リヤアクスルのピボット部。メルセデスは「ゴムベアリング」と呼ぶ。全体の構造を直接目視できなかったので詳細な構造は不明だが、おそらくは大容量のゴムブッシュを介して1本のボルトのみで固定し、自由度については意図的に規制していないと推測できる。写真上は路面側から見たところ。取っ手のように見える黒い部品は、アクスル側のワッシャー様の部品との組み合わせで伸側ストロークのストッパー役を果たしている。

ワッツリンクはスチール製。ハイドロフォーミング成型した複雑な3D形状を持つ2本のリンクを、車体側ピボットのリンクプレート(ベルクランク)で上下高さを違えて留め、上方視でワッツリンクを構成する。両端のピボットにピロボールを使うことで、横方向の力はしっかりと受け止めながら、前後方向の剛性は低めて乗り心地を確保することを狙った構成と推測する。鍛造製リンクプレートのピボットにはローラーベアリングもしくはニードルベアリングが用いられているようだ。写真はそのリンクプレート周辺。やや上方に見える、多数のスリットが入ったボトル状の部品がバンプストッパー。

車両後方のやや下側から見たリヤサスペンション。左右のワッツリンクは複雑な3D構造だ。車体中央部のベルクランクは路面に対して浅い角度を持ってマウント。

左リヤサスを車体後方の中心側から見たショット。ハブキャリアは鋼板プレス成形品で、スプリングロワーシートなどを溶接した構造。

右リヤサスを車両中心側から見たショット。リジッドアクスルとワッツリンクは、全体でハブに向けて台形を構成し、力の受け方として理にかなった構成だ。

情報提供元:MotorFan
記事名:「 サスペンション・ウォッチング | メルセデス・ベンツBクラス(W245)FFのリヤにリジッドアクスルという特異性