全長5mを超えるSセグメントのサルーンは、プレミアムブランドの世界観が最も強く現れるカテゴリーだ。アウディA8、BMW7シリーズという2台のサルーンを乗り比べることで、それぞれが示すハイエンド・サルーンの哲学を検証してみよう。



REPORT◉渡辺 敏史(WATANABE Toshifumi) 

PHOTO◉藤井 元輔(FUJII Motosuke)



※本記事は『GENROQ』2020年2月号の記事を再編集・再構成したものです。

 日本におけるLセグメントは販売面からみれば、メルセデスSクラスとレクサスLSがそれを構築している。昨今ショーファードリブンとしての役割はアルファード系のクルマが担うことも多いとはいえ、礼式視点からみればブランドや車名自体が社会に認知されているという点も強力な支持に繋がっているのだろう。



 と、セグメント的に守旧的な一面もあるこの市場においては、さしものBMW7シリーズもアウディA8もオルタナティブの側に回ることになる。が、海外に目を向ければこれらドイツ3モデルの販売は日本とは比べられないほどに接近しているのもまた事実だ。



 2015年に登場したG11系7シリーズは、昨夏にLCI、すなわちマイナーチェンジを受けたモデルが日本に上陸した。否が応でも目につくのは前期型に対して面積で40%広がったという大型のキドニーグリルだ。当然ながら個性や独自性を示す象徴としての拡大だが、賛否両論あるのはご存知の通りだ。



 が、実物を目にすると車格の大きさもあってか、写真で見ていた際の違和感はあっさり霧散する。少なくとも僕はそうだった。むしろ最新のモードに則った灯火類などによって前期型よりも俄然シャープさが高まり、それが鮮度にも繋がっている。

センター部がドライバー側に傾斜したインパネはBMWの伝統。現行モデルからタコメーターが通常とは逆回転となる方式となった。
745eは12kWhのリチウムイオンバッテリーと113㎰/265Nmのモーターを搭載する。充電は家庭用電源から行う。


Lボディではなくてもフロント、リヤ共に十分なスペースを持つ。
撮影車両はリヤ席の快適性をアップさせるリヤ・コンフォート・パッケージを装着。


PHVのエンジンは従来の4気筒から3.0ℓ直列6気筒へと進化。EVでの走行可能距離はJC08モードで47.2㎞だ。

 LCI後の7シリーズの技術的なトピックは、ADAS=先進運転支援システムのアップデート、AI対話型ボイスコマンドシステムや新世代のメーター&インフォテインメントの採用、パワートレインの強化、などが挙げられる。ADASに関しては、高速道路での60㎞/h以下の状況ではハンズオフでも前車を捕捉、追従する渋滞運転システムや直近50mの軌跡を記憶し、後退時には自動的にその軌跡を辿るリバースアシストなど、最新の3シリーズなどと同等の支援システムを手に入れた。



 試乗した745eは、前型では740eとしてラインナップされていたPHVの後継だが、新型はエンジンを2.0ℓ直4から3.0ℓ直6にスイッチ、バッテリー容量は12kWhに拡大され、WLTCモードで最長50.4㎞のEV走行を可能としている。



 最高140㎞/hまでバッテリーのみの走行を可能としているという745eのEVモードは、都市部では必要十分のパワーを備えているかなという印象だ。東京近郊になぞらえれば、首都高を使わない片道10㎞程度の通勤ならエンジンが稼働することはないだろう一方で、首都高速の合流など瞬発力を要する時にはエンジンパワーも必要になる可能性は高い。が、その際のパワーソースの連携も先代に対して一段と滑らかになった。これは一次振動のない直6がゆえの効能でもあるだろう。



 モノコックの芯材にカーボンを用いるCLARアーキテクチャーのおかげで、745eは12kWhのバッテリーを搭載していながら車重は2090㎏とこのクラスのPHVとしては相当に軽い。ハンドリングに濁りや鈍さはなく、20インチの低扁平ランフラットタイヤを履いていながら乗り心地もスッキリと洗練されており、バネ下回りから無粋なアタックやシェイクが伝わることは殆どない。この味わいは前述の軽さに加えて、BMWならではのランフラットタイヤの特性を踏まえたダイナミクスデザインの知見があってのものだろう。

センターコンソールには10.1インチのアッパースクリーンと8.6インチのロワースクリーンを装備。ロワースクリーンは手書き文字入力にも対応する。
オプションのプレディクティブアクティブサスペン ションは他システムと連携して路面状況や運転状況を予測し、サスペンションをアクティブ制御する。


撮影車両はリヤ独立電動調整シートなどを含むコンフォートパッケージを装備。
レザーで仕上げられたシートはサイズも大きくゆったりとくつろげる。


3.0ℓのV6は340㎰/51㎏mを発揮。驚くほどの出力ではないが、2tを超える重量でも走りにストレスを感じることはない。

 こと7シリーズの軽快感についてはSクラスはもとより、A8も敵わないだろうと思っていたが、18年に日本に投入された4代目A8は最新世代のASFテクノロジーで、アルミだけではなくマグネシウムやカーボンなどを剛結部材に用いたハイブリッドボディを実現している。ベルトドリブンの48Vマイルドハイブリッドシステムを採用した3.0ℓV6クワトロをして、車重は2040㎏とこちらも重量に関しては一家言持つクチだ。



 走り始めてちょっと驚かされたのはステアリンングやスロットルといった操作系が思いの外重く調律されていることだった。かつてはアウディが先陣を切って進めてきたインターフェースの操作力低減は他のドイツメーカーにも伝播したが、今やA8のそれは7シリーズよりもずしりとした手応えを伝えてくる。



 A8はこの秋から新たに「プレディクティブ・アクティブサス」がオプションで選択できるようになった。これは前方用のカメラでセンシングしたロードサーフェスに準じて、エアサスユニットに装着されたアクチュエーターを作動、伸び側沈み側の双方にエアサスをアクティブに応答させることで徹頭徹尾のフラットライドを実現するものだ。加えて、万一の側方衝突の際には衝突側の車高を上げて衝突エネルギーの伝播を軽減する機能や、停止後ドアを開くと少し車高を上げて乗降を補助する機能なども備わっている。



 日本の都市部は道もよく整備されているが、油断していると時折大きな凹凸や陥没気味のスポットに出くわすこともある。通過時にちょっと身構えてしまうような、そういう路面状況でドライバーはこのサスの効果を実感することになるだろう。実際、試乗中に現れた大きな凹面を、このA8は車体を揺することなくスイッとこなしてくれた。



 V6ターボのパワー&トルクはこの車格に十分以上。そこにこのマジックカーペットライドの組み合わせは、ドライブの歓びをハイテクで支えるというアウディの個性を飛ばしても流してもたっぷり実感することになるだろう。7シリーズも然りだが、食わず嫌いでスルーしてしまうのはあまりに勿体ない話だと思う。

〈SPECIFICATIONS〉BMW745eラグジュアリー

■ボディスペック

全長(㎜):5125

全幅(㎜):1900

全高(㎜):1480

ホイールベース(㎜):3070

車両重量(㎏):2090

■パワートレイン

エンジンタイプ:直列6気筒DOHCターボ

総排気量(㏄):2997

最高出力:210kW(286㎰)/5000rpm

最大トルク:450Nm(45.9㎏m)/1500~3500rpm

システムトータル最高出力:290kW(394㎰)

システムトータル最大トルク:600Nm(61.2㎏m)

■トランスミッション

タイプ:8速AT

■シャシー

駆動方式:RWD

サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン

サスペンション リヤ:マルチリンク

■ブレーキ

フロント:ベンチレーテッドディスク

リヤ:ベンチレーテッドディスク

■タイヤ&ホイール

フロント:245/50R18

リヤ:245/50R18

■環境性能

燃費:12㎞/ℓ(WLTCモード)

■車両本体価格:1221万円
〈SPECIFICATIONS〉アウディA8 55TFSIクアトロ

■ボディスペック

全長(㎜):5170

全幅(㎜):1945

全高(㎜):1470

ホイールベース(㎜):3000

車両重量(㎏):2040

■パワートレイン

エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ

総排気量(㏄):2994

最高出力:250kW(340㎰)/5000~6400rpm

最大トルク:500Nm(51.0㎏m)/1370~4500rpm

システムトータル最高出力:―

システムトータル最大トルク:―

■トランスミッション

タイプ:8速AT

■シャシー

駆動方式:AWD

サスペンション フロント:ダブルウイッシュボーン

サスペンション リヤ:ダブルウイッシュボーン

■ブレーキ

フロント:ベンチレーテッドディスク

リヤ:ベンチレーテッドディスク

■タイヤ&ホイール

フロント:255/45R19

リヤ:255/45R19

■環境性能

燃費:10.5㎞/ℓ(JC08モード)

■車両本体価格:1172万円

情報提供元:MotorFan
記事名:「 【BMW・745e 対 Audi・A8 55 TFSI Quattro比較試乗】ドイツ製サルーンの頂上決戦