運転士不足といわれるバス業界。

そこでいま注目されているのが、これまで運転士を目指すことが少なかった女性や若者など新たな層の採用です。

バス運転手は不人気職種ではない?! 倍率12倍の会社もあるって本当? 運転手の現状を専門家に聞いてみた


島根県益田市にある、石見交通本社
島根県益田市にある、石見交通本社

今回は、石見交通の総務部長で採用も担当している小川さんに、バス運転士の採用についてお話を聞きました。

小川さんは、前回インタビューした性同一性障害のドライバー・川上さんの採用を担当した人でもあります。



最初は戸惑った、川上さんからの応募

石見交通の総務部長・小川さん
石見交通の総務部長・小川さん


インタビュアー

さっそくですが、性同一性障害の川上さんから応募があったとき、最初はどう思われましたか?


小川さん

正直言って、戸惑いましたね。女性からの応募自体まだまだ少ない中で、さらに性同一性障害の方の応募でしたから。


インタビュアー

たしかに、そうないことですよね。
実際、川上さんに話を聞くと、過去には応募しても何の連絡もない会社も珍しくなかったそうです。

そこからどういう流れで内定~入社に至ったのでしょうか?


小川さん

まずは実際に会ってみて、その後試験も受けていただくことにしました。
すると、筆記と実技どちらも優秀だったんです。それに愛嬌もあって人柄的にもとても好印象を持ちました。

筆記、実技と接遇が優れているのに落とす理由はないとの社長の考えもあり、採用に至りました。


インタビュアー

ドライバーとして採用しない理由がなかったということですね。
ちなみに川上さんの採用にあたってハードルに感じられていたのはどんなところでしたか?


小川さん

性同一性障害等に対して差別しないという社長の考え方を社員に説明し理解させることが必要でした。
また、トイレはどっちを使うのが良いかなど、女性社員なので当然女子トイレを使ってもらっているのですが、やはり最初は他の女性社員の理解も必要になります。

そうした日々のやり取りを通じて、女性を始めとする社員に受け入れられ、自然と連携、コミュニケーションできるようになることが必要でした。

また、これまでドライバーは男性しかいなかったので、更衣室も男性用しかありませんでした。


インタビュアー

現在では、女性用の更衣室もあるのですね。


小川さん

はい、川上さんの入社後に用意して、彼女にはその部屋を使ってもらっています。
まだ川上さんひとりですが、今後女性の運転士に入社してもらうためにも良いきっかけになったと思います。



バス運転士は接客業。女性には向いている

車両内を点検する女性ドライバーの川上さん


インタビュアー

川上さんが入社後、彼女のドライバーとしての働きぶりを見てどう思われますか?


小川さん

女性として颯爽と仕事をしていて、技術的にもレベルが高いです。女性の運転士自体まだまだ珍しいですが、バスを利用していただくお客様からの評判も非常に良いですね。

ときどき電話やお手紙などで、「川上さんのバスに乗ってとても丁寧な接客を受けた」という感謝の言葉をもらうこともあります。
これは当社に対する信頼度の向上にもつながっていると思います。


インタビュアー

手紙の話は川上さんへのインタビューでもお聞きしました。わざわざ感謝の気持ちを書いて送ってくださるのはすごいことですよね。

女性ドライバーと男性ドライバーで違いを感じるところはありますか?


小川さん

当然、性別だけで判断することはできませんし、個人差もあるので一概には言えません。
ただ、川上さんを見て思うのは、女性運転士ならではの愛嬌や丁寧な接客というのは大きな強みになるということ。

少なくとも私には川上さんのような愛嬌は出せません(笑)


インタビュアー

個人差はあるにせよ、女性ドライバーはバス運転士に向いているということですね。


小川さん

はい、女性ドライバーはまだまだ少ないのが現状ですが、女性はバス運転士に向いていると思います。
私が見る限り、運転技術には男女差はほとんどありません。むしろ女性の方が優しい運転ができる場合もあります。

石見交通では「お客様にやさしいバス」をモットーにしています。これは、安全運転はもちろんですが、お客様にとって優しい運転、気持ち良い接客を行うことです。
その視点から女性運転士のニーズは今後より高まっていくのではないかと思いますね。そのような対応のできる方を女性、男性に限らず積極的に採用して行きたいです。



これまで男性社会だったバス会社。女性を受け入れる環境が必要

インタビュアー

では今後、女性の運転士を増やしていくために必要なこと、現在ハードルになっていることはどんなことでしょうか?


小川さん

これまでバス業界は男社会だったので、女性向けの環境が整っていないことも多いです。

例えば当社でも、一部の営業所ではまだトイレが男性用しかありません。女性を受け入れるためにはそのような環境の整備が必要だと思います。


インタビュアー

免許の取得も、ひとつのハードルになっているのかなと思います。
石見交通さんに応募する場合は、大型2種免許が必要なんですか?


小川さん

当社の場合は、大型1種免許を持っている方には内定までは出すことができます。
そして2種免許の取得費用は会社で負担し、2種免許を取得後に正式に採用という形になります。


インタビュアー

なるほど。それなら免許取得にかかる経済的な負担も軽減されますね。



バス運転士の採用では、過去よりも現在とこれからを重視

インタビューに答える小川さん


インタビュアー

これまでは主に女性運転士の採用についてお聞きしましたが、男性も含めたバス運転士の採用にあたっては、どんな基準を設けられていますか?


小川さん

基本的には、採用の間口は広く開いています。実際に当社でも本当に幅広い経歴を持った人が働いています。
トラック運転手から転職した人もいれば、40代でドライバー未経験から転職した人もいます。異業種からの転職者も珍しくありません。


インタビュアー

年齢や経験も問わないということですね。
採用にあたって重視するのはどんなポイントなのでしょうか?


小川さん

当社の場合は、過去の経歴をほとんど気にしません。もちろん何を考えてどんなことをしてきたのかということはお聞きしますが、重要なのは現在と、今後バス運転士として働きたいという気持ちです。


インタビュアー

小川さんは総務という立場ですが、ふだんから多くのバス運転士の方を見られていると思います。
運転士の仕事の魅力はどんなところだと思いますか?


小川さん

運転士を見ていて感じるのは、やはりまず第一に「運転が好き」「バスが好き」という人が多いですね。
バス運転士は接客業だと考えているので運転が好きなだけではダメなのですが、好きなことを仕事にできるのは魅力だと思います。

また、本人の希望と能力にもよりますが、健康と技術を保持していれば、当社では定年を過ぎて70歳まで働くこともできます。
高速バス路線は時間と本数も決まっているので残業も基本的にありませんし、無理なく働くことができます。
いまの時代、手に職を付けて長く働くことができるというのは大きなメリットではないでしょうか。


インタビュアー

以前にバスとりっぷでも取り上げられていたように、世の中にはかなりハードな環境で勤務されているバス運転士さんもいるようです。

ただ今回、石見交通さんでお話を聞いて、バス運転士の仕事について救われた人や、満足いく環境で前向きに働いている運転士さんも多くいらっしゃるのだとわかりました。

小川さん

石見交通はこの地域に貢献すべく、「BCP(事業継続計画)」「健康経営」「そうじの力」の3つを経営の柱としています。

乗務員の中には、自衛隊の幹部をされた後に最後は地元に貢献したいと、生まれ故郷の路線バス運転士になった方や、JR三江線の廃止に伴い代替バスの乗務員を希望して都会からUターンして乗務員になられた方もいます。
ぜひ、今後バス運転士を目指す人がもっと増えてほしいですね。当社でも常時募集しています。


インタビュアー

今日はありがとうございました!


情報提供元:バスとりっぷ
記事名:「 最初は戸惑った、性同一性障害の運転士の採用 バス会社の採用担当者にインタビュー