開発した植物細胞培養に適したシングルユースバッグ

北海道三井化学とNEDOは、植物細胞の培養技術と遺伝子発現制御技術とを組み合わせた上で、イチイ細胞培養技術によってタキサン系医薬中間体10-DABを効率的に生産する手法の開発に取り組んでいます。このたび、植物細胞向けに撹拌翼を用いず800Lスケールでの培養を可能にしたシングルユースバッグを開発しました。撹拌コントロールを含む制御ユニットが不要になるため、バイオ生産プロセスのコストを大幅に低減することが可能になりました。
今後は開発したシングルユースバッグを活用し、多様な植物由来機能性物質を高効率に生産することで「スマートセルインダストリー」の実現に貢献します。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/247490/LL_img_247490_1.jpg
開発した植物細胞培養に適したシングルユースバッグ

1. 概要
北海道三井化学株式会社は、国立大学法人京都大学と共に、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が行う「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発」事業(スマートセルプロジェクト※1)に採択され、2016年度より、「イチイ細胞培養技術を用いたタキサン系医薬中間体10-デアセチルバッカチンIII(10-DAB)※2の効率生産法開発」テーマを行っています。
タキサン系抗がん剤は細胞分裂に重要な役割を果たす微小管に結合・安定化することで脱重合※3を阻害し、細胞分裂を妨げることで抗がん作用を示すことが知られています。このため子宮頸がんや卵巣がん、胃がん、非小細胞肺がんなど、多くのがん種に対して高い有効性が確認されており、がん治療に広く使用されています。一方、タキサン系抗がん剤は複雑な構造を有していることから、化学合成による供給は実質不可能と考えられており、海外ではイチイの樹木を10年にわたり栽培することで抗がん成分を取り出す手法が主流となっています。しかし長期間の栽培となると自然災害や病虫害の発生リスクが高くなるため、抗がん成分を安定供給する上で大きな課題となっていました。
これを踏まえ、本スマートセルプロジェクトでは北海道三井化学が有する植物細胞培養技術に遺伝子発現制御技術を組み合わせ、重要なタキサン系医薬中間体10-DABの高効率生産法開発を進めてきました。イチイの樹木から確立したイチイ未分化細胞培養系は細胞の増殖速度が他の植物細胞に比べて非常に遅く、脱分化状態で2週間培養しても3倍程度にしか増殖させることができません。ここで多くの前培養槽を用意すれば培養スケールを大きくすることができますが、同時に設備費も増加してしまいます。
また動物細胞の培養などで用いられるシングルユースバッグ※4は、SUS(ステンレス)製の培養槽に比べると安価ではありますが、バッグ内を均一に撹拌(かくはん)し細胞を浮遊させるための撹拌翼や平面型シングルユースバッグでは旋回振盪(しんとう)によりバッグ内を撹拌するための振盪器が必要となり、これら制御機器に対する設備費が大きくなる課題がありました。
今回、NEDOと北海道三井化学はスマートセルプロジェクトの中で、植物細胞培養に適したシングルユースバッグを開発し、撹拌翼を用いずに800Lスケールで培養することを可能にしました。撹拌コントロールを含む制御ユニットを不要とすることで、低コストのバイオ生産プロセスを実現しました。

2. 今回の成果
北海道三井化学では、スマートセルプロジェクトの中で植物細胞培養に適したシングルユースバッグの開発を進め、撹拌翼なしに細胞が沈殿することなく培養できる点を特徴とするバッグの開発に成功しました。植物細胞は複数の細胞が接着した細胞塊を形成するため、細胞数が多いほど重くなり沈降しやすくなり、沈降した細胞は酸素不足となって正常な細胞分裂ができなくなってしまいます。そこでシングルユースバッグの底部に専用の管を装着し、水流を循環させることで撹拌翼を用いずに細胞の沈降を抑制させることが可能となりました。イチイ培養細胞を用いた試験では800Lサイズでの培養で、フラスコと同等の細胞増殖性を確認し、またイチイ細胞以外の植物細胞でもフラスコと同レベルの良好な細胞増殖性を確認しました。
本成果により、撹拌翼の制御ユニットなどが不要となり、SUS製の培養槽に比べ設備費を10分の1程度に抑えることが可能となりました。

3. 今後の予定
引き続きタキサン系医薬中間体10-DABの高効率生産技術の開発を進めるとともに、本プロジェクトの成果であるシングルユースバッグの実用化を進める方針です。開発したシングルユースバッグを活用し、多様な植物由来機能性物質を高効率に生産させることで「スマートセルインダストリー」の実現に貢献します。


【注釈】
※1 スマートセルプロジェクト
事業名 : 植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発
事業期間 : 2016~2021年度
事業・プロジェクト概要: https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100118.html

※2 10-デアセチルバッカチンIII(10-DAB)
イチイ属植物に含まれるタキサン系抗ガン剤パクリタキセルの生合成中間体化合物で、他のタキサン系抗ガン剤ドセタキセル、カバジタキセルは10-DABから半合成され製造されます。

※3 脱重合
細胞は、微小管同士が束になり重合している状態から微小管がばらばらに解離する状態を経て分裂し、増殖します。脱重合は、細胞分裂の後期にみられる微小管がばらばらに解離することです。

※4 シングルユースバッグ
使い捨てされる培養バッグであり、本リリースにおけるシングルユースバッグの定義は「洗浄・滅菌して再利用しない培養バッグ」です。シングルユースバッグは洗浄・滅菌工程が不要で製造期間短縮が可能であるほか、外界からの微生物混入などのリスクを低減できるなど多くのメリットがあります。

情報提供元:@Press
記事名:「植物細胞の低コスト培養を可能にするシングルユースバッグを開発 ー多様な植物由来機能性物質の高効率生産を実現へー