F1のタイヤは2011年から、中国企業傘下でイタリアのブランド、ピレリが供給している。それ以前、2007年から2010年までは、日本のブリヂストンが1社で供給していた。


F1は2007年から、タイヤをワンメイク(1社独占供給)にすることにした。入札に応じたのがブリヂストンであり、供給業者の指定を受けたということだ。2006年まではブリヂストンに加え、フランスのミシュランが参戦しており、「タイヤ戦争」と呼ぶにふさわしい競争を繰り広げていた。


もっと時代をさかのぼると、1996年まではアメリカのグッドイヤーがF1参戦全チームにタイヤを供給していた。この頃はルールでワンメイクとしていたわけではなく、グッドイヤーしかタイヤを供給するメーカーがいなかったのだ。1989年からピレリが通算3回目の参戦を果たして競争が成立していたが、1991年に撤退し、実質的にグッドイヤーの独占供給状態となっていたのである。


1997年、グッドイヤーに立ち向かうべくF1に参入したのがブリヂストンだった。しかし、グッドイヤーとブリヂストンの競争は長く続かなかった。1998年限りでグッドイヤーが撤退したからである。 1999年からは事実上、ブリヂストンのワンメイクとなった。


2001年、そこにミシュランがやって来た。ミシュランは1977年から1984年までの期間もF1に参戦しており、17年ぶりの復帰だった。前述したように、ブリヂストンとミシュランは激しいタイヤ開発競争を繰り広げた。競争のおかげで技術は進歩。それにともなってグリップ力は高まり、F1マシンは年々速くなっていった。大げさに言えば、F1のスピードアップはタイヤの性能向上にかかっていた。


裏を返せば、マシンやドライバーの競争ではなく、タイヤの競争を見せられているようなものだった。2007年のワンメイク化は、過熱化するタイヤ開発競争に待ったをかける意図もあったのだろう。ミシュランは、「競争がないカテゴリーに参戦する意味はない」として、入札に際し手を挙げなかった。

 

 

 

■タイヤメーカーは“競争”がお好き!?


世界の主要なカテゴリーは、ワンメイク化が主流である。参戦するチーム側にとっても、タイヤを供給する側にとってもコストの負担が軽いからだ。タイヤメーカー同士で競争する必要がなければ、性能向上のための開発をする必要はない。「性能はこれこれこうだから、あとはチームとドライバーで上手に使ってね」と送り出すだけで済む(信頼耐久性は保証する必要がある)。

 

DTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)は、韓国のハンコックが独占供給


F1直下のF2選手権もF1と同様、ピレリのワンメイクだ。ホンダ・シビックなどが参戦するWTCC改めWTCR(FIAワールド・ツーリングカー・カップ)は、ヨコハマ(横浜ゴム)のワンメイク。日本のスーパーフォーミュラもヨコハマのワンメイクだ。日本のSUPER GT GT500クラスと技術規則を共有するDTM(ドイツ・ツーリングカー選手権)は、韓国のハンコックがタイヤを独占供給する。アメリカのインディカー・シリーズは、アメリカのブランド、ファイアストン(ブリヂストン傘下)のワンメイクだ。オーストラリアで人気のスーパーカーズ・チャンピオンシップは、イギリス発祥のブランドであるダンロップのワンメイクである。


競争がないとイヤだと言っていたミシュランは、ワンメイクの規定ながらフォーミュラE選手権にタイヤを供給している。競合メーカーとの技術競争はないが、タイヤ開発自体がチャレンジングで、そこに参戦の意義を見いだしている。フォーミュラカーはホイールリム径の小さいタイヤを装着するのが一般的(F1は13インチ、インディカーは15インチ)だが、フォーミュラEは大径18インチを装着する。

 

フォーミュラEはミシュランのワンメイク。独占供給ながらタイヤ開発そのものに意義を見出している


まず、そこがチャレンジング。さらに、ドライでは溝のないスリックタイヤを履き、路面が濡れているときは溝のあるウエットタイヤに履き替えるのがトップカテゴリーでは一般的だが、フォーミュラEはドライ/ウエット兼用の溝付きタイヤを履く。1種類のタイヤで2つの異なる状況に対処しなければならないのも、技術的なチャレンジを要求する。そこが、ミシュランがフォーミュラEへのタイヤ供給を決めた理由だ。

 

“競争”ができるSUPER GT GT500クラスにはブリヂストンのほか、ミシュラン、ヨコハマ、ダンロップも参戦する


本拠地フランスから遠く離れた日本のSUPER GT GT500クラスにタイヤを供給する(NISSAN GT-R NISMO 3号車/23号車が装着)のも、競争によって技術を磨くためである。ミシュランはフランスで開発・製造したタイヤを日本に持ち込んでいる。そこまでして、競争がしたいのだ。GT500にはブリヂストンも参戦しており(他にヨコハマ、ダンロップがタイヤを供給)、かつてF1で散らせた火花を、場所を変えて散らせていることになる。


グラベル(ダート)やアスファルトに雪や氷など、さまざまなステージで競技を行うWRC(FIA世界ラリー選手権)も技術を鍛えるのにふさわしいステージで、ミシュランはタイヤを供給。WRCの公式タイヤサプライヤーは3社が指定されているが、自動車系ワークスチーム4社(トヨタ/フォード/ヒュンダイ/シトロエン)はすべてミシュランを選択している。

 

WRC(FIA世界ラリー選手権)の自動車系ワークスチームはすべてミシュランを選んでいる


モータースポーツの主要カテゴリーに参戦することで、タイヤメーカーは自社ブランドを広くPRできる。それで良しとするのか。それとも、技術開発に軸足を置くのか。何を目的にするかによって、ワンメイクがいいか、複数メーカーの参入を認めているカテゴリーがいいかの判断は分かれることになりそうだ。
 

情報提供元:citrus
記事名:「なぜF1のタイヤはピレリだけなのか?